“レジリエンス”や”マインドフルネス”といった、ストレスに強くなる方法が注目されており、ストレスフルな現代社会を生き抜くための研究が進んでいます。
この記事では、ストレスによる弊害を科学的に明らかにした上で、単発的・短期的なプレッシャーと、長期的・慢性的なストレスの2つの視点から、ストレスに強くなる方法をたくさん紹介しています。
この記事に読んで、書かれている中から自分にあった方法を実行に移して頂くことで、ストレスに強くなり、充実した人生を送ることができるようになるでしょう。
ストレスに弱い人は早く死ぬリスクが高い?
重要な試験や試合、商談などに挑むにあたっては、たいていの人はストレスを感じます。
こうした単発的・短期的なストレス(精神的プレッシャー)に負けてしまうと、本番で自分の実力を発揮できないため、プレッシャーに強くなりたいと望む人はたくさんいます。
そのため、プレッシャーに強い人は憧れの対象になったります。(例:野球のイチロー選手、サッカーの本田選手など)
一方で、学校や職場などで毎日・長期間に渡って晒される高頻度・慢性的なストレスは、脳や身体に悪影響を及ぼし、本人が気づかないうちに心と体の健康を蝕んでいきます。
私たちの身体では、腎臓と脳の内分泌系がストレスに対する反応をコントロールしています。
ストレスを感じると“コルチゾール(別名ストレスホルモン)”を分泌します。
そして、コルチゾール値が高い状態が長期間続くと、以下のような悪影響が生じます。
まるでストレスが自己増幅していくかのような悪循環に陥ってしまいます。
- 恐怖感が増大していく(恐れを感じる扁桃体の活動が活発になるため)
- 記憶力が落ちる(海馬の働きが悪くなるため)
- ストレスの制御力が弱まる(海馬の働きが悪くなるため)
- 集中力、決断力、判断力が低下する(前頭前野が萎縮するため)
- 人と交流するのが億劫になる(前頭前野が萎縮するため)
- うつ病になる(海馬で新しい脳細胞が作られるのが妨げられるため)
<出典>TED「ストレスの人体への影響(シャロン・ホレシ・ベルククイスト)」を基に筆者編集
また、同じくTED「ストレスが脳に与える影響(マデュミタ・ムルジア)」によれば、ストレスによる悪影響は脳だけではなく、全身に及びます。
- ストレスホルモンは血中を駆け巡って血管や心臓に届くため、血圧を上げ、高血圧を引き起こす原因となる
- コルチゾールは血管内壁の機能不全につながり、動脈硬化を起こし、心臓発作や脳卒中の可能性を高める
- 胃が痛くなるだけでなく、やがて過敏性腸症候群を引き起こす
- コルチゾールは食欲を増進して肥満につながるほか、余分なカロリーを内臓脂肪にして蓄積する
- テロメアを短くし、早死にするリスクを高める
ストレスが身体に悪いことは一般的に知られていますが、これだけの悪影響を並べ立てられると恐ろしくなりますね。
こうしたストレスに負けない力として、“レジリエンス”という言葉が注目されています。
次章ではこの「レジリエンスとは何か」といったところから説明していきます。
レジリエンスとは
“レジリエンス(resilience)”とは、逆境や不幸によって強いストレスを受けた状況から立ち直る力のことです。日本語では”回復力””弾性力”と訳されたりします。
人間関係の断絶や家族・友人の死などの悪い出来事をしっかりと受け止めて、私たちを再び前へと進ませてくれます。物理学の用語に由来しており、「外力による歪みを跳ね返す力」として使われていました。
レジリエンスは一連の技量や素質であると同時に、何があっても順応できて柔軟になれる能力ともいうことができます。
また、レジリエンスは学んで身につけることができる力であり、その最良の方法は、「学習によって身につける楽観主義」を用いることだと、”ポジティブ心理学の祖”と呼ばれるセリグマン氏も言っています。
ストレスに強くなるための17の方法(①緊張・不安対策編)
それでは、レジリエンスを高めてストレスを克服するための対策を紹介していきます。この章では、”緊張によるストレス対策”に焦点を充てて、その秘訣を書いています。
1.不安を書き出す
アメリカのベイロック博士らが、期末試験に臨む高校生を対象にした実験によれば、テスト直前に不安を書き出すことで点数が上がったという結果が得られたといいます。
テスト直前に10分の時間を与えて、次の試験科目のどの部分がどう不安に感じているかを具体的に書き出してもらった結果、10%ほど点数が向上したのです。
ちなみに、試験に関係のないことを書くのでは効果がなかったことから、何でも書き出せば良いということではなく、これから挑戦することに対する不安
を書くことが重要なようです。
2.自分を励ます単語を書いたメモを眺める
「頑張れ!」「できる!」といったポジティブな単語を見ると、実際に力が出るということが分かっています。
心理学者によるサブリミナル映像を使った興味深い実験結果があります。
目の前のモニターに「握れ」と映し出されたら手元のグリップを軽く握るという作業で、たまにポジティブな単語を一瞬だけ表示するのです。
あまりに一瞬なので読むことができないのですが、握る力は2倍に上昇しました。
この実験によって、無意識のレベルでも励まされればやる気が出るということが分かりました。
3.好きな匂いを嗅ぐ
ストレスにアロマセラピーが良いといったことは女性を中心によく耳にしますが、五感の中で最も原始的な感覚である「臭覚」に働きかけるということは高い効果が見込めます。
アロマセラピーが効果を発揮するメカニズムは、薬理作用と心理作用の2つに分けられます。
薬理効果とは精油に含まれる化学成分が身体に作用するものです。
一方、心理作用とは香油成分が気分に影響を与えるというものです。アロマは薬理作用よりも心理作用が強いという特徴があります。
五感の中で「嗅覚」だけは特殊です。
解剖学的には、嗅覚以外の4つの感覚は、大脳皮質に届くまでに「視床」という中継点を通る必要がありますが、嗅覚の情報は大脳皮質や扁桃体に送られます。すなわち、「香りの刺激は直接大脳に届く」ということになります。
大事な場面に臨む際には、勝負下着ならぬ勝負香水を身に振りかけるか。香水嗅ぐと気分が良くなるお気に入りのアロマをハンカチに染み込ませておく等すると良いかもしれませんね。
4.無理にでも笑顔の表情を作る
笑顔は、笑顔を作る人にとっても、良い心理効果があることが明らかになっています。
横向きに箸を口にくわえると、笑顔に似た表情筋の使い方になります。
ドイツのミュンテ博士らの論文によると、笑顔に似た表情をつくると、ドーパミン系の神経活動が変化することを見出しています。
ドーパミンは脳の「快楽」に関係した神経伝達物質であることを考えると、楽しいから笑顔を作るというより、笑顔を作ると楽しくなるという逆因果があることが分かります。
このように顔の表情には“顔面フィードバック”と呼ばれる効果があって、表情を作ることで本人の精神や身体の状態に影響を与えることができます。
5.背筋をまっすぐにする
こうした身体から心(脳)へのフィードバックは表情だけに限られません。姿勢も心に影響を与えます。
スペインのブリニョール博士らの実験によれば、背筋を伸ばして座った姿勢で質問に対する回答をした時、答えた内容はさほど変わらなかったものの、自分の回答に対する確信が高まったということです。
つまり、背筋を伸ばすことで、自信を高めることができるということになります。
6.「力強いポーズ」を2分間する
人は他人のボディランゲージ(非言語行動)に影響を受けますが、自分の非言語行動に自分自身も影響を受けることが分かっています。
エイミー・カディ氏は、一定のポーズを2分間取ることで自分自身に対してどれだけの影響があるかを調べるために興味深い実験をしました。
腕を広げたり胸を張ったりなどの「力強いポーズ」を2分間した人のグループと、縮こまって小さくなる「力の弱いポーズ」を2分間した人のグループで、ポーズを取る前後で、唾液に含まれるテストステロンとコルチゾールの分泌量を比較するというものです。
(人間だけに限らずゴリラなどの霊長類のリーダーは、テストステロンの量が多く、反対にコルチゾールの量が少ないという特徴があります)
<出典> TED「面接前にこのポーズをとれ、ボディランゲージが人を作る(エイミー・カディ)」
実験の結果は以下のようなものでした。
- 力の強いポーズ: テストステロンが20%増加。コルチゾールが25%減少
- 力の弱いポーズ: テストステロンが10%減少。コルチゾールが15%増加
このように、2分間だけ「力強いポーズ」をすることによって、自分自身のことをどう感じるかを変えるだけでなく、体内ホルモンのバランスすらも変化させることができます。
大事な場面の直前に、トイレにこもって2分間、このポーズをとってみては如何でしょうか。
7.握手する
誰かと6秒間握手することで、信頼のホルモンである”オキシトシン”の血中濃度が劇的に上がるとのことです。
握手する相手が必要ですが、周囲に人がいたら思いきって握手を求めてみるのも良いでしょう。
そちらの方がかえって緊張するというのは話が別ですが(笑)
8.終わった時のことを想像する
重要なプレゼンを控えている時などは、緊張が極度に達し、まるでその状態が永遠に続くかのような錯覚に陥るものです。
そういう時は、本番終了後のことを具体的に想像すると、気分が楽になります。
あと○日後、×時間後には本番は終わっている。結果はともあれ、とにかく終わったということで自分へのご褒美に素敵なレストランで美味しいものを食べているだろう!
といったような具合にです。
9.呼吸に集中する
最後に最もシンプルで、かつ効果的なリラックス法は、呼吸に意識を向けることです(俗にいう「深呼吸」です)。
これから大事な試験や重要なプレゼンに臨む前、あなたの呼吸はどうなっていますか?
おそらく、「浅く・速く・荒く」なっているでしょう。落ち着いている時は「深く・遅く・穏やか」なのに対して正反対の状態になっているはずです。
呼吸を深く、ゆっくりとさせることで、心臓の鼓動もゆっくりとしてきます。それに従って感情も落ち着いてくることでしょう。
ストレスを克服するための17の方法(②慢性的なストレス対策編)
ここからは、”慢性的なストレス対策”に焦点をあてて書いていきます。
10.瞑想する
現代では、街中にヨガスタジオが溢れており、女性を中心に人気を博しています。
美容・健康といったカジュアルなイメージを持つことで広まりましたが、もとはインドに伝わる心身鍛錬のための手法で、呼吸・姿勢・瞑想を組み合わせて心身の緊張をほぐし、心の安定とやすらぎを得ることを目的としています。
最近では“マインドフルネス”という心のトレーニング法が特に注目されています。
世界中の大企業で、幸福度の向上や成果につながる方法として取り組まれています。
瞑想の達人は、瞑想中にガンマ波が現れることが知られています。(瞑想の素人では出すことはできません)
修行を積むことで、自分の意思で脳波を操作できるようになることが解明されています。
最近の研究では、20分の瞑想を5日間繰り返しただけでも、すでに脳活動に変化が認められるというデータが得られつつあります。
11.運動する
アメリカのクルパ博士らのネズミを用いた動物実験の結果ではありますが、身体運動を伴うとニューロンが10倍ほど強く活動することが分かっています。
同じ感覚刺激があっても、与えられた刺激と自ら動いて得た刺激とでは、脳に対する影響度が全くというほど異なります。
身体を動かして、積極的に外部の情報を取り入れることで、脳の活動が活発になるのです。
12.風呂に浸かる
夜は、ゆっくりとお風呂に浸かりましょう。
お風呂の湯温は38℃くらいのぬるめが適温です。入浴剤を入れて臭覚に働きかけたり、音楽をかけて聴覚に働きかけるなどすることで一層リラックス効果が高まります。
13.早起き早寝する
お風呂からあがったら部屋全体を暗めにして、ストレッチや瞑想などをしてゆったりと過ごしましょう。
しばらくして眠気を感じたらすぐに床について眠りましょう。お風呂に入るなどして体温が上昇した後に、下がるという体温の変動幅が大きいほど眠気が催されます。
ベットの周りにはスマートフォンを置いてはいけません。スマートフォンの画面を眺めるのは最悪ですが、近くにあるだけでも無意識の脳がスマートフォンの存在を気にしているというのは科学的に証明されています。
こうして早寝を勧められると、不眠気味の人は眠れないことがプレッシャーになりがちですが、眠くなければ無理して寝る必要はありません。
よく眠れなくても、頑張って早起きしていれば、翌日の夜は前日の晩よりも良く眠れるようになります。それを繰り返しているうちに早寝が習慣になっていくでしょう。
14.ストレスに対する考え方を変える
この記事でもたくさん書いてきましたが、現代はストレスフルな時代であり、ストレスのせいで精神と身体の変調をきたすことが広く知れ渡るようになってきました。
そのため、「ストレスは悪」という考え方が当然のこととして捉えられています。
しかし、健康心理学者のケリー・マクゴニガル氏は「ストレスに対する考え方が寿命を左右する」という研究結果を発表しました。
3万人のアメリカ成人に対し、「前年ストレスがあったか?」「ストレスが健康に悪いと信じているか?」という2つの質問をし、その後の死亡記録を追跡するという壮大な実験をしました。
調査結果から得られた結論は、
ストレスがあった人の死亡するリスクが、ストレスが無かった人に比べて43%高かった。しかし、それは、ストレスが健康に悪いと信じていた人だけで、ストレスが健康に悪いと信じていなかった人は、ストレスが無かった人と差がなかった。
というものでした。
こうして、18万2千人のアメリカ成人が、「ストレスからではなくストレスが体に悪いと信じていたこと」によって死期を早めたと結論づけました。
ストレスに対する主観をベースにした調査なので、回答者の主観のバラツキはあるかと思いますが、母集団の量から判断すると、「ストレスに対する恐怖心がストレスになって早死にする」ということは言えそうです。なんとも皮肉な実験結果です。
この記事を読んでいるあなたも、ストレスに関して興味があるという点で、この罠に陥るリスクがあると思いますので、このことを知って、ストレスに対する”過度な心配”をしないように留意してください。
15.嫌なことを思いださない
私たちは日常で嫌な経験をした場合、その時に不快な思いをするだけに留まらず、時間が経ってもその不快な記憶が忘れられずに、思い出しては嫌な思いを引きずり続けます。
つまり嫌なことは、その時だけでなく、後から何度も繰り返し私たちを苦しめ続けるのです。
そのように思い出しては再び苦しむことを“不健康な心の癖”と呼び、そのデメリットの大きさについて、ガイ・ウィンチ氏がTEDでスピーチしています。
不健康な心の癖を把握して、それを変えねばなりません。最も不健康で、かつ一般的な癖は反芻(はんすう)です。
反芻とは何度も噛み続けることです。上司に怒鳴られた時。教授に授業で馬鹿にされた時。友達と大喧嘩をした時。その場面を何日も頭の中で繰り返さずにいられません。時には数週間です。こういった腹の立つ出来事の反芻は簡単に癖になり、しかもその代償はとても大きいんです。
非常に多くの時間が腹立たしくてネガティブな思考への集中に使われ、自分を大きなリスクにさらすことになるからです。<出典>TED「感情にも応急手当が必要な理由(ガイ・ウィンチ)」より筆者抜粋
嫌なことを反芻する癖をなくすことは、私たちの心と身体を守るためにとても大切なことです。
16.気を紛らわせる
ガイ氏は、その癖をなくすための方法の一つとして、2分間で良いので気を紛らわすと良いと言っています。
嫌なことを反芻している自分に気がついたら、すぐに思考を中断して、歩き回るでも良いし、スマートフォンで動画をみるなど、何でも良いので、2分間他のことに集中して、気を紛らわせましょう。
17.「3つのP」に対する考え方を変える
ポジティブ心理学の祖と呼ばれるマーティン・セリグマン氏の実験で、レジリエンスが強かった人と弱かった人を比較した結果、”3つのP”に対する考え方が異なっていたことが分かりました。”3つのP”とは以下になります。
- Permanence(永続性)
- Pervasiveness(普及性)
- Personalization(個人化)
レジリエンスが強かった人は、困難に直面した時、「これは一時的なことだ(永続性)」「これは1回きりだ(普及性)」「私には何とかできる(個人化)」と考える傾向があったとのことです。
反対(レジリエンスが弱かった人)は、「これはずっと続く(に違いない)」「これは何度も起こる(に違いない)」「誰がやってもダメだ(に違いない)」となります。
ストレスに強くなる方法17選|まとめ
“緊張によるストレス”に対しては、数多くの対策があります。
これらを一つ一つ、またはいっぺんに試してみることで、自分にとって効果的な方法が見つかることを願っています。
“慢性的なストレス”に対しては、自分でできることに関しては、対策を試してみて欲しいのですが、外部環境を変えることは困難なので、決して無理をしすぎずに、「ダメだ」と思ったら、素直に逃げることも大切です。
当記事で読んで頂いた通り、慢性的なストレスは健康を害し、寿命をすら縮めます。
高齢化社会、格差社会が進む中では、逃げることも難しい局面は多々あると思います。
私も10年以上に渡り、両親の介護と多忙を極める仕事との板挟みで高ストレスの日々を過ごしました。
そのような、逃げることすらできない環境におかれた人に、最後に希望の欠片として、トラウマが自己実現をもたらす可能性についてお伝えしたいと思います。
病気や事故、死別などの不幸な経験を経ることで人生観が良い方向に変わることが、近年様々な研究領域で明らかになってきているそうです。
例えば、癌にかかった人が「こうして病気になるまで人生の生き方が分からなかったなんて残念なことをした」と嘆く人が多いことに、心理療法士のアーヴィン・ヤーロム氏は驚いています。
極端な逆境は、それを乗り越えることで、人生の優先事項と人生哲学を変え、明確なビジョンの獲得につながります。
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